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『フォレスタ・グレダ』―。

大陸の5分の1を占める広大な森。

そのどこかに・・・
『エルフ』が存在し、森への侵入者を影から監視している―。

「う〜・・・おっかね・・・」

「・・・意識しすぎだよ、マーク」

森に入ってからも、ふたりはこんな調子だった。

実際、森を歩いていてもエルフと遭遇することはなく

遭遇したのは、森の動物、そして魔物くらい。

4、5時間も歩いて、ふたりは森の中心の開けた場所―大陸を二つに分けるトリトン河の、それにかかる巨大な橋へと着く。



「・・・ひょお。いつ見てもすんばらしい景色だこと」

「・・・本当にな・・・」

コウとマークは、揃って橋から身を乗り出し、口々にそうつぶやいた。

巨大な渓谷になっているその場所―そのはるか下方に流れる一本の河。

そこに架けられたこれもまた巨大な橋。

その景色はまさに“芸術”というべきものだった。



休憩を兼ねてしばらくそれを堪能したふたり。

「そろそろ出発しよう。順調に行けば、日が完全に沈むまでにはグレナダに着ける」

コウがそう言って、森を抜けるために再び進もうとして―

コウとマークは、自分達と離れた場所で同じように橋に身を乗り出している“小さな少女らしき誰か”を見つける。

・・・正確には、その“誰か”は“二人と同じ景色を見ていた”のではなく、遥か天空に何かあるのだろうか、

その“何か”を見つめていたようだけれど。


「可愛いレディが一人でこんなところまで・・・」

いつもの調子でそんなことを言うマークに、少し呆れつつ・・・。

コウはその“小さな少女らしき誰か”をあらためて見直して・・・そして、黙る。

その間、数秒ではあったが。

「・・・ん?どした、コウ??

ああ、何だかんだ言ってもお前も・・・」

コウの態度の変化を知らずか。マークは変わらない調子でコウにからむ。

が、次のコウの一言でそれも変わる。

「マーク・・・あの子は。
『エルフ』だぞ」

「へぇ、そらまた珍し・・・。・・・へ?!」

コウに言われて、マークもその“小さな少女らしき誰か”をあらためて凝視する。

長い髪の合間からちょこんと飛び出した耳―それはまさしく『エルフ』に見られる身体的特徴の1つだ。

・・・と。

ふたりと、その視線に気づいたその“小さな少女らしきエルフ”とで目が合った。

互いに動かないまま少しの時間が過ぎる。

その沈黙を破ろうと、コウが口を開こうとすると―

それに気づいた“小さな少女らしきエルフ”は一瞬脅えたように身体を震わせ、そしてその場から走り去ってしまう。

「あ〜あ。ダメだよコウ。あんな小っちゃな女の子なんだから、もちっと・・・」

「・・・・・・」

マークのからみはとりあえず無視して。

コウは、黙ったまましばらくエルフの走り去った方向を見つめる。

(エルフ・・・初めて見たけど。なんか思っていたのとは違ったな・・・。

小さかったとは言ったって・・・エルフってのはもっと好戦的なもんなのかなって思ってた・・・それに・・・)

「コウ?・・・うぉーい、コウさーん?」

マークの呼びかけにも気づかないくらい―

コウは、そのエルフの事で考えがいっぱいになっていた。

(なんだろう・・・?あのエルフを見てると・・・なんか・・・)



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